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Lee-Byung-hun addicted

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第7話

Femme de ma vie ~Homme de ma vie <7> 


ニースロケのあった夜、揺はテヨンを食事に誘った。

二人はあの日からとても親しく付き合っていたが

不思議とこれまでお互いプライベートについては語らなかった。

最初はいつも通り映画の話で盛り上がっていたが

揺は意を決してテヨンに話しかけた。

「ねえ、テヨンさん、実は折り入って話があるんだけど。」

言い出しにくそうに切り出した。

「どうしたの?そんな深刻そうに」

テヨンは不思議そうに答えた。

「私、実は・・・ギジュさんとミンチョル君と知り合いなの」

「えっ。うそ」テヨンは驚いて言った。

「嘘みたいな話でしょ。私も不思議な気分なの。」

そういうと揺はテヨンにギジュと知り合ったいきさつから

今日マダムボディエに聞いた話までを語った。

そして最後にこう付け加えた。

「私は熱心なキリスト教信者でもないし、

何か他に特別に信仰している宗教があるわけではないけれど

ギジュさんだけでなく今度こうして貴方とも偶然知り合ったということは

やはり神様の引き合わせというか特別な縁なのだと思うの。

ミンチョル君のためにも貴方達のためにも

何か私に手伝えることがあるのではないかと思って。

余計なお世話かも知れないけど。」

揺が面と向かって真剣にテヨンの目を見てそう話すと

彼女はおもむろにこれまでの出来事について語り始めた。

「どこから話したらいいかしら。」





話は7年前に遡る。

彼女が冷たく突き放したためにスヒョクが運転中に起こした事故。

真実は異なるにせよテヨンにとってあの事故の原因となったのは

自分の思いやりのない行動に他ならなかった。

あの事故で記憶を失ったふりをしたスヒョク。

記憶を失わせてしまったことを悔いて

テヨンはひとりパリに旅立つことにした。

だが、記憶を失ったというのは彼の嘘。

それが嘘だとわかってもテヨンはギジュの元から去った。

スヒョクをそこまで追い込んでしまった自分が許せなかったから。

ギジュとふたり幸せになる自分をすぐに受け入れることはできなかった。

テヨンは独りパリに住み2年の年月が流れた。

テヨンのすべてを理解し迎えに来たギジュとの再会。

テヨンは時を経て自分を許し、二人は結ばれた。

そしてミンチョルの誕生。

ギジュとテヨンは幸せだった。そして2年。

そんなとき受け取ったのがマダムボディエからの手紙だったのだ。

同郷ということもあって姉妹のように親しい間柄になった

マダムボディエからソウルに帰りギジュと二歳にもならないミンチョルと幸せに暮らしていたテヨンがある日受け取った手紙。

その内容のほとんどはいつものように他愛のないものだったが

最後に書いてある一文を読んだテヨンは目を疑った。

そこにはボディエ夫人が友人のお見舞いでパリ市内の大学病院に行ったとき

スヒョクによく似た人物を見かけたというものだった。

しかも見かけたのは脳神経外科の外来。

ユン・スヒョクと呼ばれていたので、

もしかしたら弟さんなのではないか。大丈夫なのかという内容。

スヒョクはソウルに戻ってきて

ギジュとテヨンの結婚を祝福した後、

また放浪の旅に出ていた。元気でやっているとばかり思っていた。

彼からたまに届く絵葉書は元気で楽しいとしか書かれていなかった。

(人違いだろうか。)

テヨンはギジュにその手紙の内容を相談した。

ギジュはしばらく考えたのち、

現地のスタッフにその病院の患者がスヒョクであるかどうかの調査を依頼した。

結果は紛れもない本人で

診断結果は家族が直接聞きにこないと教えられないということだった。

競合他社との熾烈なシェア争いが繰り広げられる中

どうしてもソウルを離れられなかったギジュは

その確認をテヨンに任せた。

パリについたテヨンはスヒョクに会いに行く前に病院に行き

彼の容態について問い合わせた。

彼の主治医によると彼は以前の外傷が原因による脳障害に陥っており、

脳内の血種がこれ以上大きくなると失明の危険性があるという。

すでに血種が視神経を圧迫し始めており、

視野狭窄の症状が出始めているという診断だった。

失明しないためには血種を取り除く手術が必要だが

血種のある位置からして難しい手術になることが予想された。

失敗したら失明の可能性もあるとのこと。

テヨンは言葉を失った。

スヒョクの視力を奪おうとしているのはあの7年前の「事故」だった。



テヨンはスヒョクの病状を聞き、

結局自分だけが幸せになってしまったという思いに駆られていた。

彼を不幸にして今私だけこんなに幸せだなんて・・・。

テヨンはまた4年前のテヨンに戻っていた。

自分を許せないテヨン。幸せを受け入れられないテヨン。

ただ、4年前と違ったのは今度はスヒョクの目となって生きることを覚悟したということ。

ギジュもミンチョルも裏切ることになる。

それでもテヨンは自分の気持ちを偽ることが出来なかった。

テヨンがこちらに来てからもスヒョクは帰れの一点張りだった。

テヨンがこちらに来てから半年くらいして

彼は血種を取り除く手術をした。手術は成功だった。

幸い失明は免れたが視力が低下していて以前のような自由な生活は難しくなった。

テヨンはここに残って彼の目として生きることを決めていた。

そんな時彼は突然に消えてしまった。

いろいろ探してみたけれど見つからなかった。

一度捨ててしまったところに帰ることもできず、スヒョクも見つからない。

テヨンはすべてを諦めてかけていた。

「・・・・それが私が今ここに一人でいる理由」

テヨンは一通り話し終わるとワインを一口、口に含んだ。

「それでスヒョクさんの居所の手がかりは?」

スヒョクの件がはっきりしなければテヨンはソウルに帰らないだろうと悟った揺はそう尋ねた。

「最近、プロヴァンスに住んでる新進のアジア系画家の作品が有名になっていて、
もしかしたらスヒョクじゃないかと思って行ってみたんだけど会えなかったの。

絵を見たら以前と全く違う作風だったんだけど

何か訴えかけてくるものがあった気がするの。」

テヨンはそうつぶやいた。

「じゃ、このロケが終わったら一緒にプロヴァンス行きね。

まずは彼を探さないと。」

揺は神様が自分に何をしろと言っているのかをつかみ始めていた。




「ビョンホン、あのCMの返事どうする?

先方からは2月中に返事って言われてるんだけど」

ワンモ理事はスタッフと談笑しているビョンホンに向かってこう話しかけた。

「契約的にはギャランティーもいいし、

企業イメージもハイクラスだし何の問題もない。

後はお前の気持ち次第なんだけど。

気が進まない理由でもあるのか?」

理事は不思議そうに尋ねた。

「別にそういうわけじゃないんですけど・・今月いっぱい考えさせてもらっていいですか。」

ビョンホンはちょっと考えてそう答えた。

CMの仕事・・・それはギジュの会社GD自動車の2006年秋発売のセダンのニューモデルのイメージキャラクターになってCMに出演しないかという仕事。

GD自動車は国内のトップメーカーだし、

2006年秋発売予定の新車は国際的にも勝負に出る社運をかけたものだという噂で業界はもちきりだった。

ビョンホンにとってもいいイメージUPになるはずの仕事だった。

ビョンホンは自分でもどうして返事が出来ないのか不思議だった。

(社長はあいつなんだよなぁ・・・)


釜山のホテルで会ったギジュの顔が思い浮かぶ。

彼は揺をつれてエレベーターに乗り上がっていった。

揺を信じていないわけではない。

ただ、彼が自分と同じ「縁」を揺と持っていることが気にかかっていたのかもしれない。

「やっぱり何となく気が進まないんだよなぁ・・」

ビョンホンは椅子に乗ってクルクル回りながら考え込んでいた。




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